written by みさやんさま




Everything i do is for you.
 〜闇に架ける虹〜



<6>



ヨーロッパアルプス某所―。

絶え間なく降り続いている雪は、墜落したドルフィン号の上へと積り、機体が焼け焦げた煙さえも消していた。
ブラック・ファントムと、その基地からの迎撃で傷だらけになったドルフィン号は、機体の全動力をオフにしたまま、冷たい白銀の世界にひっそりと身を隠していた。
時折、雪混じりの強い風が、機体に開いた穴から入り込んでは壁にあたり、行く場を無くした迷い風が、妙な音を立てていた。
そんなドルフィン号の内部では、一時の休みも無く機体の修理を続ける002達の姿があった。





機械が焼け焦げた臭いが充満するエンジンルーム内では、バチバチとした音と共に、火花が飛び散っていた。

「…なあ004、あと3センチ左に被弾してたら、補助エンジンに当たってるぜ?」
「そんなもんに命中していたら、上空で大破だったな…」

電動工具を片手に、機体内部を修理していた002と004が会話を交わす。

「なあ、お前、あとどれくらいで飛べるんだ?」
002は、コンコンとエンジンをノックしながら、ドルフィン号へと話しかけた。 

「明朝までにはエンジン部分の修理を終わらせないと、俺達に次はない。ブラック・ファントムと基地は破壊したとはいえ、ここはBGの息がかかった場所だからな。とにかく時間はない」

004は、剥き出しになっている配管や電線の修理の手を止めずに、002に話しかけた。

「時間か…、そういえば今、何時だろうな?」
「さあな…」004は、深い息をはいた。

「なあ、004?」
「なんだ」
「スノーとかいう男、空中を加速装置つかってドルフィン号まで移動して来たのか??」
「加速装置を持つお前なら、空中でそれは可能だと思うか?」
「マッハで飛んで、さらに加速装置を使うってことか?」
「ああ、そうだ」
「まあ、可能だろうな。でも俺の構造じゃ、オーバーヒートしてドカンだ。そこが“俺達”の辛いとこ」
俺達という言葉に004は、声をたてずに苦笑いした。

「第一世代の俺達じゃ無理でも、009を造った今のBGの科学者が、009と002の性能を併せ持つサイボーグを造れる可能性は、大有りだな…」
「でもあの男、ドルフィン号から飛んだっていうよりは、飛び降りたって感じだったぜ?」
「ああ、そうだったな」
「俺みたいには飛べねえんじゃないの?足の裏、確認しときゃ良かったぜ」
「コクピットや外部に穴が開けられた形跡はなかったとなると、イワンのような能力かもしれんな」
「そう思うと、瞬間的にコクピットに移動して来たと思うのが妥当な線だと思わねえか?」
「エスパーか」
「一人で俺達三人分の性能だってか?!チェッ!BGも、派手なことしやがるぜ」
「様々な機能を、一人で兼ね備えたからといって、戦闘能力が上がるとは限らんけどな」



「002、004、修理の進み具合はどう?」
008の声が響き、電動工具を止めた004は、エンジンルームへ入ってきた008の険しい表情に目を止めた。



動力室、2・4・8




「こっちは夜には終わりそうだ」
「分かった。004、怪我をしているのに、すまない」
008は、傷ついた004の肩へと視線をうつした。

「俺の肩の傷くらいたいしたことはない。今も、ちゃんと動いているからな。それより、中央の修理はどうだ?」
「005が一人で進めてくれている。あと一時間もあれば穴を防げるはず」

「008、009と003の行方はどうなんだよ?それからスノーって男の消息は?」
002が問いかけた。

「まだ、手がかりがない。ドルフィン号からは、ずっと暗号化した微弱電波を送信し続けている。だけど、009と003からの返事が無いんだ。空力と衝撃で、009と003の無線機が故障しているとしか思えない」

「だとしたら、009と003は自分達の居場所さえも分からなくなっている可能性が高いな…」
「恐らくは、負傷した状態で遭難していると思う」

「008、35000フィートから落ちたら、俺達の身体はどうなる?」
「落ちた場所にもよるだろうけど…、003は、009の手が届いていればとしか…」
「二人で落ちたとはいえ、敵も一緒なんだ。当然、戦闘になっているだろうからな」
004の言葉に全員が、コックピットでの突然の惨劇と、003の悲鳴を思い出していた。

「くそっ!!すぐにでも助けに行きたいくらいなのによ!!」
ジェットは、混沌とした怒りをぐっと噛み締めていた。

冷たい冷気が、また動力室へと入り込む。
微かに顔にあたる風に目を細めた004は、
「夜には吹雪が止むと良いが…、捜索はそれからだな」 と呟いた。
「そうだね、004…」
返事を返す008に004は、
「その後、ギルモア博士と連絡は取れたのか?」 と、問いかけた。

「いいや、電波が乱れて通信が届かない」
「そうか…」
「下手に、007達に日本から動かれたら二の舞だぜ?」
「でも002、ドルフィン号が無いのに、さすがにそれは無理だと思うよ?」
「008、007達のことだ。来ようと思えば、どんな手段使っても来ちまうぜ?」
「まあ、そうだね。引き続き、通信の方は僕に任せてよ。まだコックピットの修理も残っていることだし、やれるだけのことはやってみる」

「とにかく、今の俺達に出来ることは、早急にドルフィン号を修理し、飛べるようにすることだ。皆、急ぐぞ!」
004の声が、エンジンルームに響き渡った。



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