「Give me a little smile」
written by みさやんさま







ジョー



<5>


視界不良の中、やがて海中から姿を現したのは、ドルフィン号ではなく、小回りの効く水中モードのポーパスだった。
009はそのコクピットに滑りこむように、急いで乗り込んだ。
ポーパスはドルフィン号への帰還を急いだ。

「009、無事で良かった」
操縦していたのは005(ジェロニモ)である。
「助かった。すまない」
009は空いている操縦席に座ると、ソナーでステルス潜水艦の位置を確認したが映らない。

「まだ無理か。機能はあるんだけどね…」
「対光学処理センサーは大きな動力を必要とする。現在、ポーパスに搭載するのは無理だったからな…。
むっ!!!右舷から魚雷航走音確認!距離800、700……」

この時、ドルフィン号の帰還ハッチはすぐそこである。

距離600……

「迎撃防御、デコイ発射!!全バラスト注水!緊急ブロー!」
※デコイ…おとり、身代わり

500……
「了解!!」

間に合ってくれ!!

400……


魚雷がポーパスの頭上を通り過ぎるのと同時に、ポーパスはドルフィン号へ帰還した。

「帰還成功!」
「005、先に戻る!」
009はポーパスの出口から外に出ると、ドルフィン号のコクピットへ急いだ。



***



「008、ポーパス、帰艦確認完了したわ!」
「了解!デコイ発射。全部バラスト注水!機関全速、緊急潜航!」
「了解!」
ドルフィン号は、海溝近くの巨大な岩の陰に隠れた。
近くには海底火山への入り口がある。

「機内エンジン停止。出力最小。隠れるアル」

ドルフィン号は、一時的に全主力動力を落した。




***

その頃、BG潜水艦内 ――――。

「艦長!船(艦)体爆発音、確認できません!」
「取り逃がしたか!!!デコイ発射!至急、熱源追跡モードに切り替えろ!」
「了解」
「艦長!前方に小さな熱反応あります」
「よし!音響魚雷発射!」
すぐ近くに奴らの母艦がいる筈だ。まずは003を潰す!

「了解」

――――――――――。

「艦長!魚雷、船体爆発音、確認できません」
「艦長!熱源確認もできません!」
「…上手くおとり(デコイ)を使ったようだな!!至急、バッフル確認しろ!!」
「了解!」

――――――――――。

「艦長!バッフル・クリアー!敵の影ありません!」
「うーむ!総員、全ソナーに集中しろ!!」

―――――。
「艦長、スクリュー音確認できません」
「艦長、熱反応無し。姿がありません!」
「気を抜くな!とにかく早く捜すんだ!」

長時間戦は不利だ。どこに隠れたんだ!
このままではこっちが遣られる。
どうする?!

まさか、こうも簡単に取り逃がすとは思っていなかったスノーは、考えを巡らせる。
その時、彼の背後の空気が僅かにゆれた。

《してやられましたね。スノー艦長》

スノーは振り向かずに「影」に話しかける。

《指揮系統から離れ、今までどこに行っていたんだ。メルデ副艦長》
《いえ、私は指揮系統にはいましたよ。ただし"副艦”の操縦席ですがね。こちらには口を挟まなかっただけですよ…》
《逃げる準備かね?》
《私は用意周到な男なだけですよ…。いつでも御指示を》
《今回の失敗はすべて艦長である私の責任だな》
《もう失敗と決めるのですか?》
《相手を甘く見ていたよ。特に009をね》

《・・・・。009だけではない。ゼロゼロナンバーの潜水艦ですが、技術レベルも相当なもののようですよ…》
《やはり、そう思うかね?》
《船体レベルは互角。もしくは上…。相手も我々同様に姿を消しているんですよ…》
《このままではステルスの意味がないな…。海底には岩も多い。
いくら(隠れるには)有利な地形とはいえ、後手に回ってしまってはそれを利用し難いね。
かといってこのままの状態では空にも出れんしな…》

《空へ出るためには、外側の機体離脱を含めて三十秒は必要…。熱量は少なくともhalf(半分)はkeepして下さい…。
それ以下になると出力最強で飛べませんよ…》

《君は冷静だよ。優秀な機械を動かしているのは誰だと思う?》
《……フフフフ……》
《そう、人材だよ。「人財」。BGが優秀な財産である君を捨てるなんて行為はマヌケだね。
もう一度、生きた身体を取り戻したまえ、メルデ副艦長》

《…私はサイボーグ改造手術に失敗した、いわばBGにとってはただのゴミです。あなたに助けられなければ永遠に闇の存在。
燃やされることもなくね。表には出れません…私はこのままで充分…》

《分かっている。君は表には出さんよ》

《スノー艦長。勝つためには逃げる事もお忘れなく……》

《くそっっ!!》

《…焦ると死期を早めますよ》

《…助言を有難う。メルデ副艦長。いささか熱くなる性格なんでね…》

メルデは音もなくスノーの傍を離れた。



奴らは思ったより逃げ足の速いネズミだったようだ。
我々(高速潜水艦)が近付く前に逃げられ、しかも潜水艦を利用して機械サメごと一気に片付けるとはな…。
逃げ足が早いだけでなく、頭も良いようだな。
すべては009、余計な細工(母艦からの操作が出来ない)なんぞしおってっ!!


「艦長、一億円は海の藻屑…」
「ゼロゼロナンバーには逃げられ、このままでは、我々の首が飛びます!」
「そんなことは分っている。しかし調査という任務は遂行しているぞ。俺に任せろ」
「は!」

「あの〜〜、艦長、最終的にはこれを使いましょうか?」
「縦山、どれの事だ?」
「この赤いボタンを押すのであります!いざとなったら使え!と、マニュアルに書いてあります!」

ポカ!!!

「いたたたたた〜〜〜っ!!!このヘルメット頭が!!」
「自分は全く痛くありません!」
「こっちの手が痛いわ!それよりアホか!この艦もろとも死にたいのか?!」
「は!自分はBGに命を捧げておりますから!」
「お前の忠誠心は分かっている!!しかし最後まで諦めるな!!」
「は!」

偶然とはいえ、思ったより早く「獲物」が現れたこのチャンス。
逃すわけにはいかない。
しかし……

―勝つためには逃げる事もお忘れなく―

操縦席に座っているのはすべて生身の人間。
この人員と今の状況では長期戦は無理だな…。
逃げ帰ったとて、スカール様が私を切るとは考え難い。つまり今後、索はあるだろう…。
スノーは腕組みをしていた。

そして数歩移動すると縦山の背後に立った。
「おい、縦山。俺の合図で青いボタンを一度だけ押せ」
「は???」
「ボタンを押したがっていただろ?赤ではない。青だぞ!青!!!」
「あ、青!!はい!!」
「いいな?俺の合図に遅れるなよ!」
「は!了解しました!」





・・・・・・・・。

《スノー艦長。我が命、預けましたぞ…》

・・・・・・・・・・・・。





「総員に告ぐ。このまま気を抜くな!索敵を続けろ!!」
中央に戻ったスノーは、海中以外には何も映らないメインパネルを睨みつけていた。





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