「Give me a little smile」
written by みさやんさま





<4>


人の気配を感じない――――。

それは無人潜水艦だった。
二人の大人が行動するのがやっとな程の、狭い潜水艦内。
艦内を照らす明かりはなく、内部側面には幾つもの計器やパネルが並び、それが作動しているブーンという機械音だけが響いていた。
その機械パネルが作動する青白い光だけが、不気味に潜水艦内を照らす。


「009、この艦(ふね)は自動操縦だ」
操縦席らしき場所をチェックした008が、潜水艦後部を調べている009に声を掛けた。

「ああ、008。それより此処に長居するのは利口じゃないようだ」
「どういうことだい?」
「この潜水艦。この辺り一帯の海水温度、海底の状態、それから海底火山の活動の記録を調べてどこかに送信しているらしい」

「何のために?」008が判りきった表情でそう答えた。
「恐らく…」
「だろうね…(つまり)……」
009が言い終わらないうちに008が返答した。

「009、この潜水艦はBGの調査用の潜水艦に間違いないようだ。つまりここで破壊したほうが良さそうだ」
「うん。たしかこの先には、珊瑚の群生がある。だから破壊するなら生物も少なく深度のあるこの辺りで……」

その時、薄暗い潜水艦内部全体が、一瞬赤く点滅した後、009の真横にある一つの四角いパネルが、警告を知らせるように、続いて三回赤く点滅を繰り返した。


「!!!」




CAUTION!!

CAUTION!!




敵艦内、ジョー、ピュンマ




CAUTION!!

パネルは警告を知らせる赤い文字を数回点灯させた後、数字に切り替わった。


180/180
179/180
178/180
177/180
176/180
・・・・・
・・・・
・・・


爆発までのカウントを知らせる数字がゼロに向かいどんどん下がってゆく。

「気づかれたらしい!!」
009は自爆装置のカウンターがある場所を、008に目で合図した。
「脱出だ!」

009は海底用の携帯通信機でドルフィン号のコクピットに連絡した。
小型潜水艦の船底にいるドルフィン号を、素早く安全ポイントに移動させなくてはいけない。

『003、006!!現在、自爆装置170秒前だ。これより僕達は緊急脱出する。
ドルフィン号も緊急回避体勢に入ってくれ!!時間がかかるようなら緊急浮上!!』

『009、了解!!バラスト排水。緊急ブロー!!』

ビービーと操作抑制の機械音がドルフィン号のコクピットに鳴り響く。

『009、緊急ブロー無理だわ!!』
『どうしたんだ?』
『009、安全浮上経路が確保できないアル!これより緊急沈降準備にはいるアル!』
『006、了解!バラスト注水、緊急潜航するわ!』
003が返答する。

『何故、進路確保できない?』

『009、前後左右に武装したサメの大群がいるんだ!!いつの間にか現れやがった!!!』
003が回避操作をする声の中、007からの情報が届いた。

「「武装したサメの大群!?」」
009と008が叫んだ。

『サメは全部ロボットよ!!周囲を囲まれたわ!!!』
潜水艦とその底部を潜航しているドルフィン号を、BGの武装した機械サメが取り囲みつつあった。
『003、対迎撃防御!30秒後に前後部フィッシュ(=魚雷)!!』
009から攻撃の指示が届く。
『前後部のフィッシュ?!そんなことしたら、あなた達が!!』
『この近距離で危険アル!!』
(ドルフィン号の)外の二人が爆発に巻き込まれることを心配した、003と006が交互に叫んだ。

『003、僕達なら大丈夫。素早く安全ポイントに脱出するから!』
009と008の声がコクピットに響く。

『おおおおおいっ!!!右舷前方、2時の方角に巨大な影、緊急接近!!!移動速度、速い!!敵艦かもしれんぞ!!!』

!!!!

『ヒ〜〜〜ッ!!008と009が帰艦してないアルよ〜!こんな時に〜!!!』
『006、落ち着いて!!なんとかする!!』
009が通信機で叱咤激励を飛ばす。
コクピット内がざわつくなか003が声を張り上げた。

003 『!!対光学処理センサー、自動作動したわ!!!』
006 『こうなったら長期戦は厳しいアルよ〜』
007 『敵艦、ソナーから消失状態。003、ステルス索敵ソナーに切り替える。…上手く映ってくれよ…』
005 『先に見つけた者が勝ちだな…』




小型潜水艦内―

「ステルス潜水艦?!」
ドルフィン号のコクピットの声を聞いた009と008が同時に叫んだ。

(くそ!またか!!早くドルフィンに戻らなければ!!!)
009と008に非常に緊迫した空気が流れる。
最初の連絡では、現在007が管理するドルフィン号のソナーで潜水艦の影が確認出来ていた。
それが途中から姿をくらました。
ドルフィン号のステルス索敵ソナーの欠点は、海底では長時間の使用が出来ないことだった。
とにかく009達に時間の余裕はないようだ。

「それにしても…、姿を現したと思ったら、消えるなんて、威嚇のつもりなのか?どう思う、009」
「かもしれない。…それから今頃は、ドルフィン号もソナーから姿を消した事に驚いているさ」
「海底用のステルス機能は、「後で」搭載したからね。新作ってやつだね」

009は艦内に視線を走らせたまま、言葉を続けた。
「…008、もし、敵艦が海底で長時間のステルス状態を維持出来る機体なら、もっと早くに姿を消しているはずだよね…」
「!!!!」

「…とすると、相手の戦力は互角かもしれない」
「なるほど。タイミング次第ではこちらに有利に運べそうだ」
「上手く、替え玉(デコイ)を使えば、時間とドルフィンのエネルギーを稼げると思う」
「僕も同じ事を考えたよ、009!!」

「それから008、先に脱出してくれ!」
「009、先にって、どういうつもりだ?」
「この艦を自沈させる。爆発まであと150秒ある!!潜水艦で武装サメに特攻をかける」
操縦席に移動した009が、タッチパネルを操りながらそう返答した。
「と、特攻だって?」

(日本人だからってその考えはないだろ、009!?僕達は君を失いたくないんだ!)
008がそう返答しかけたとき、先に009が返事を返した。

「もちろん、潜水艦だけね」

「あ、当たり前だよ、009!」
「?」
009は、ポカンとした顔で一瞬だけ008を見たが、またすぐにパネルに視線を移し、パネルに指を滑らせると、 小型潜水艦のメインコンピュータへの侵入操作を開始した。
そして「Secret」に忍びこむと、暗証番号をはじき出し、外部から機体を操作出来ないように、暗証番号を変更した。
これで母艦からの指示は届かない筈である。

「早く行けよ、008!僕なら大丈夫だ」

「了解!先に艦(ふね)に戻る。でも君も早く脱出しないと危険だ!」

「自動操縦の設定を此処から周囲200mを最高速力で繰り返し旋回するように設定する。つまり先に機械サメを片付ける。
操作にあと20秒は必要だから、008は早く行ってくれ!」

(君は、潜水艦を旋回させながら、武装サメごと爆発させるつもりだったのか?!)

「009!解った!!一部サメをひきつけて、君が脱出しやすいように脱出ポイントを設けるから、その瞬間、潜水艦から離れ、危険水域から脱出してくれ!!ドルフィンで君を拾う!!」

「了解。腫物(=小型潜水艦)にぶつかるなよ」
「009、僕は誰だい?」
「戦闘のエキスパートであり、そして最高のパートナーさ!」
「009、健闘を祈る」
008は小型潜水艦を離れた。



143/180


137/180


135/180


130/180


(これでよし!)

009は急いだ。


119/180


自動操縦の設定を終えた009は、潜水艦の出口ハッチを開き、海中に出ると力一杯潜水艦の甲板を両足で蹴り、 海面に向かい身体を上昇させた。

109/180

009の脱出に気がついた機械サメが、数匹009の後方から彼を追いかけてくる。
一瞬、ロックされた気配を感じた009は、ホルスターへ手を伸ばした。
機械サメは案の定、魚雷を発射させてきた。
海中を泳ぐ009と魚雷の距離がどんどん近付く。

(左に3、右に2。右のは撃たないと逃げ切れない!)


67/180


「くっ!!!」

009は振り返りながら、スーパーガンの照準を一番近い魚雷に合わせた。

55/180


45/180

009はスーパーガンの出力を最大にして、自身から最も近い魚雷に向けて一撃を加えた。
続けてその後ろの魚雷にもう一発を撃ち込む。
追跡型魚雷ではないことが幸いしていた。
左の三発は「的」を外し、009の横を通り過ぎると海面へ出て爆発した。

25/180

15/180

4/180



0/180



瞬間、海中が一瞬、前後左右に大きく揺れ、眼下では操作した小型潜水艦が機械サメを巻き込み、相次ぐ爆発を繰り返した。
その爆発で、海底の砂や小ぶりの岩が舞い上がり、海中を白く濁し、009の視界を悪くする。

「うっ!!」
爆発後の勢いのある水の流れが、海底からハリケーンのように渦を巻き、力一杯どっと押し寄せたかと思うと、 その瞬間、009の身体を数メートル跳ばした。
強い水の流れは、009の動きを封じ込め、海中に混ざる爆発後の多数の機械の破片は、 水圧で身動きが出来ない009に、容赦なく襲い掛かる。
視界が悪い中、009は海中に神経を集中させる。
スクリュー音を聞き漏らさないために、そして強い流れに意識を飛ばされないために。





←back / next→