「The biginning」
written by みさやんさま





<3>


昔からの地元住民が数百人ほど居住していた村。
009達がそこに辿りつく一時間前、そこは無残にもBGの攻撃をうけていた。
BGにとっては軽い攻撃だったはずである。
相手は武器を持たない生身の人間が数百人のみ。住んでいる家も質素なものである。
武装した戦車を使うわけでもなく、おそらく数人のサイボーグマンによって、人や村は無残にも焼かれた。
邪魔なものは武力で排除するBGの卑劣なやり方に立ち向かうためには、同様に…武力しかないのだろうか?


***



地下基地での戦闘が、009達に優勢になってきたのを確認した009は、一人地上に出ると、バオバブのふもとの村目指し、全速力で移動した。
連絡の途絶えたC班に加勢するためである。
村に着いた009は、周囲の気配を気にしながら前後左右に神経を尖らせた。

崩れた瓦礫、燃えた民家。

舗装されていない田舎の道路に砂埃が舞い上がる。
「皆は何処に……」

辺りにサイボーグマンや戦車の気配、空中に戦闘機がいないことを感じ取ると、彼は生存者を求め、村の中を次々に移動した。
時折、突風が吹き、それによって渦を巻いた砂が彼の視界を悪くする。
風が焦げ臭いニオイを運んできて009の鼻をついた。
数メートル先の民家から黒煙が上がっていた。
009は目を細めながらも、キッと前方を睨みつけるとそこに向かった。
近付くにつれ、その焦げ臭い刺激臭はさらに鼻をついた。
悪い予感は的中していた。

「くっ!」

009は目の前に倒れている、大小数体の黒こげの遺体を目の前に唖然とその場に立ちつくした。

(僕達がもう少し早く此処に来ていれば!!)
BGに対する憎悪が彼の心を揺さぶり、その行き所のない怒りに009は力いっぱいぐっと拳を握った。

バッシューーン!!

突然、009の頭上で何かが発射されたような音が聞こえ、そして、 ヒュルルーーーー という嫌な音が聞こえた。
009は身の危険を察知し、コンクリートビルの瓦礫の山の陰に素早く身を移動した。

彼が移動したその瞬間、先程009がいた辺りでミサイルが爆発した。
顔を焼くような熱風が、隠れている彼を瞬時に襲う。
周囲がどんどん赤く燃え上がっている。
民家とその周辺を燃やす程の炎は、さらに燃え広がり、バキバキとゆう音を立てて、そこに人々が生存していたという記録を奪った。

彼は空中を見上げた。
地上から数メートルは砂埃が舞い上がっており、視界が悪い。
近くで燃え上がる火柱はその視界をさらに悪くしたが、空中に002の気配を感じた彼は無線で連絡を取った。

『002!!!上にいるのか?!』
『009無事だったか?!』
『君達に加勢する!!僕以外はまだ基地の中だ。だけどもう少しで片付く筈だ。Cの他の皆は?!』

空中の002は広い範囲を移動しながら、スーパーガンでおそらく敵に攻撃をかけているのだが、しかし地上からは相手が全く見えない。
009は戦闘に集中した全神経を尖らせた。

『あ、やべっ!!009そこから逃げろっ!!』

『!!!』

そう聞こえただけで、002からの通信が途切れ、その瞬間ヒュルルーーという音と共に、頭上に先程と同型のミサイルが降ってきた。
009は加速装置ですばやく数十メートル移動し、空から身を隠すと空中を睨みつけた。
002が僅かに残した飛行機雲が彼の居場所を教えていた。

しかし肝心の敵の居場所が、先程からずっと分からないままである。

『002どういうことだ!!』

009は無線で叫んだ。
スーパーガンの出力を最大にして、002が空中で応戦しているその先には戦闘機が何処にも見えないのだ。

『ステルス迷彩機だ!!』

『なんだって!!』

『009気をつけろ!!空中に二機いる。そのうち一機は俺らの通信回路の周波数を読み取る機能を積んでいるらしい。 つまりこうやって会話している間にも…くそっ!!』

(つまり通信で、隠れている僕の居場所が相手にばれるのか?)

先程から002は、空中で敵戦闘機のレーザー攻撃をかわしながら、そのレーザーが発射されているであろう辺りを狙って攻撃を繰り返していたことに間違いはなかった。
009が肉眼で002の動きを追う。002のその動きは空中の一機を狙っているようである。

しかし先程002は空中にニ機いると伝えてきたのだ。

あともう一機は?
009は空中を捜した。
その時009の耳に空中からミサイルの降る音だけが聞こえた。


(そういうことか!!)


『009、そこから逃げるんだ!!』
『004?!』

どこからか004の脳内無線が一瞬だけ聞こえ、009は素早く加速装置で別の瓦礫の山へ移動した。
そして自分が先程いた場所からミサイルの速度で機体の位置の目安をつけると、戦闘機がいる辺りめがけて、スーパー・ガンを撃ち放った。
009が攻撃するのと同時にバシューーンという発射音が聞こえ、004が足のミサイルを同じ場所に撃ち込んでいた。

(これが最後のマイクロミサイル!なんとか命中してくれよ!!)
004は内心祈った。

009のスーパー・ガンのレーザーの閃光は、004のミサイルと共に空中の戦闘機めがけて攻撃をかけた。
同時に一つの的を攻撃したことで、その威力が増し、戦闘機が爆発音と共に空中で一瞬にして大破した。
004と上手く攻撃のタイミングが合ったことが、幸を成した結果だ。

燃えきらなかった破片が空中から地上へと降りそそぎ、それがぶつかり合い、地上でバシバシと音を立てた。


(これで残るは002が相手にしている一機のみなのか?) 009が空を見上げる。

『あと一機よ!!』

その時003から通信が入った。009は003も無事だったことに安堵したが、すぐに警戒を知らせる通信を送った。

『003!!!いま話すと危険だ!!』

『009、もう通信は大丈夫。今、大破したのは周波数を読み取る機能がついた機体よ。これで話せるようになったわ』
003は無線機を搭載した機体の位置が分かっていたようである。

『おい003、無事だったか。怪我はないか?』
002が003の通信に安堵し連絡を再開してきた。

『ええ、私はなんとか』
『よっしゃ、これで立場逆転ってやつだぜ!004は無事か?』
『ああ、俺の方の怪我なら大丈夫だ。ただもう一人怪我人が、赤ん坊がいる』
『生存者がいたんだ!!』
009が通信で叫ぶ。
『ええ。私が腕に抱いているわ。ただ…怪我が酷いわ。早くドルフィンに戻らないと!そして一刻も早く手当てを受けないと…』
『赤ん坊が怪我!!003、004はとにかく君と一緒なんだね』
『ええ』

009は通信しながらも、002がスーパー・ガンを打ち込む先をめがけて、地上から何度も攻撃をしていたのだが、もう一機の方は地上からではさすがに距離がありすぎてその光線銃が届かない。
それに地上から攻撃することによって、こちらの居場所が相手に分かってしまう。
身を隠し移動しながら、攻撃を繰り返していた009だが、やがて戦闘機は彼の予想通りに、002への攻撃と並行しながら、地上の009へ向けてレーザー攻撃を仕掛けてきた。

「地上からはこれ以上は無理だ!!このままでは!!!」

009は、敵戦闘機によるレーザー攻撃を避けながら、他に何か策はないか考えていた。

『009、ドルフィンがこっちに向かっているわ。僅かに機体のエンジン音が聞こえる!だけど…ああ!!!あと五分かかってしまう!!!』

(五分か…)

『002!!空中のステルス機が、僕にミサイルを打つように仕向ける!!002!聞こえるかい?』
『了解。機体の外にミサイルがない以上は、地上からは敵が見えないからな。俺も高度を下げる。お前を狙った瞬間、ミサイルのハッチが開く。その時に(機体のハッチ部分が見えるはずだから)同時に攻撃するんだ!』
『了解!』

009は002と通信を交わし終わると、見渡しの良い場所にその身体を投げ出した。
そして空中の002がいる辺りに向かい、スーパー・ガンの照準を合わせた。

『003、補佐を頼む!』
009が003に通信する。
『了解。高度7500フィートから旋回しながらさらに下降。速度140ノット。前方。ハッチが開くわ!!!』
003の通信が009に届いた。

そしてミサイルハッチが開いた一瞬の隙に、肉眼で僅かにその姿を見た009と002はその場所に照準を合わせると、スーパー・ガンを同時に打ちはなった。

その瞬間、009の頭上で酷い爆発音が聞こえ、空が真っ赤になったかと思うと、辺りに爆風と共にバラバラと機体の燃えかすが飛び散った。


真っ赤になった大地は009の姿を掻き消した−−−。


「009!!!」

002と003が同時に叫んだ。


やがて炎と噴煙が薄くなり、草木がなくなった大地に、ぼろぼろになった防護服をまとった009が、一人ぽつんと立つ姿が確認された。


joe


002が009の傍に降り立つ。

「終わったな…」

「ああ…」

009はしばらくの間、足元の焼け野原になった大地を睨むように俯いていた。
そして空から聞こえるエンジン音に顔を上げると、周囲を見渡した。
高台の丘に生き残っていた一本のバオバブの木の後方の空には、ドルフィン号の姿が見えていた。

「009、ドルフィンだぜ!」 002も空を見上げた。
「ああ、無事で良かった」

空中のドルフィンは着陸態勢に入った。
その姿を確認した003は、胸に赤ん坊をしっかりと抱きかかえたまま、ドルフィンの着陸地点に向かって走りだした。
009がその姿を目で追う。走って行く003の背中の防護服が、焼け焦げているように見えた。

(003……)

009は003の後を追うように、その場から走り出した。
一方002は、004を救出するために003が隠れていた辺りに向かい走り出していた。

数十メートル離れた辺りに、ドルフィン号へ帰還すべく移動するモングランの姿も見えていた。





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