「The biginning」
written by みさやんさま





<2>


地下基地近くには、まだ緑の残る村があるはずだった。
鼻をつく異臭が漂う中、C班は辺りの光景を見て愕然とした。



「なんてことなの…」
「これはひでえ…」
「くそ、一足遅かったか」
「こいつは今うけた攻撃じゃねえな…」
「ああ、遺体の状態、それから大地の熱さからして、攻撃から一時間は経っているだろう」
「酷いわ…この人達はなんの抵抗も出来ないまま…」
003はあまりに無残な光景に、一瞬目をそらした。

「ちゃんと見ておくんだ」
「おいおい、少しは勘弁してやれよ」
「そうじゃない。これから幾多もの戦闘が待っているんだ。俺達は人の生死をこの目で見ていかないと行けない。戦場で目をそらした ら、敵に隙を与えることになる」
「解ってるわ」

003はそう言いつつも、両手を口に当てた。
BGの第一期サイボーグである彼女は、過去多くの特殊訓練を受けていた。
その中で生死の現場を何度も見てきた。
しかしそれは、すべてテスト用に作られた全身機械のサイボーグマンの死だったのである。
もともと003は自ら攻撃を仕掛けるために作られたサイボーグではない。
戦闘用のサイボーグを、高性能に改造された眼と耳で補佐し、円滑に戦闘を進めるために設計された潜行偵察用のサイボーグである。
しかし自らも戦闘に加わりながら、その機能を発揮する必要があるため003にも戦闘訓練は随時行われていた。
実践で補佐能力を最大限に引き出すために、実際002や004と同じ訓練場所の時も何度もあったし、それ以外では、003が一人で全身機械のサイボーグマンを次々と倒していくという訓練の時もあった。
自分が相手を攻撃しなければ、相手にやられる。
そうやってBG時代、戦闘テストを繰り返してきたが、相手を撃ちのめしたところで、その体からは血の一滴も出なかったのである。
ましてや死臭すらもない。



「004、確かに俺達はBGから戦闘訓練を受けている。003だってそれなりに乗り越えてきたはずだ。だけどこの光景は……」
「002、戦闘時、甘えは禁物だ」
「おい004!俺がいつ甘い考えを持ったてんだ!」
「優しや悲しみは強さにも繋がる。しかしそれは時と場合によると言いたいんだ。目の前で死んでゆく人間と、攻撃しなければならない敵。その両者が揃ったとき、お前ならどっちを見ている?…どんな悲惨な出来事を目撃したとしても、そこに敵がいる限り、一瞬たりとも敵から目をそらせるわけにはいかんだろう」
「でも!今、此処に敵はいないようだから言ってんだ!」

「そう思っているのは俺達だけかもしれんぞ!!」
004が冷静に、しかし言葉に力を込めて、そう言い放った。

その気迫に、002は一瞬言葉を詰まらせた。
「う…確かに俺達はいま敵の懐にいるからな…。どこかで俺達の様子を見ている奴らがいる可能性は充分にある。しかし003は…それは解っていて…」

「二人とも、私なら大丈夫だから!私だって戦闘訓練を受けたサイボーグよ…、もちろん004の言いたい事は解っているし、002の伝えたい事だって解ってる」
「003……」
002が眉間にシワを寄せたまま、渋い表情で彼女を見た。

「それより009達がそろそろ地下基地に辿りつく時間だわ。……残念ながらここに生存者がいない以上、私達もそちらに向かいましょう」
003は辺りを見回すと、生存者がいる可能性が低い現実に、一瞬、落胆の表情を浮かべた。
「そうだな」

004は辺りを警戒しながら、幹の折れた木や、傷んだコンクリートの建物に身を隠しながら、先頭を切って移動を繰り返した。
そしてその後を003、002が続いた。
移動途中、003が二人を呼び止めた。

「待って!小さいけど…僅かに息遣いが聞こえるの!近くだわ!」
「なんだって?!」
「どこだ!!」

003は瞬時に場所を聞き分けると、その方角に向かい、全速力で走り出した。
「あの瓦礫の下よ!たぶん…そこに…」

その時、空からヒュルルル〜〜という爆弾が投下されるような音が聞こえたかと思うと、それは地上で爆発し、辺りは一瞬にして炎に包まれた!

「ああ!!!!」

003はその音を避けるようにして、転がるように地面を移動していた。
瞬く間に炎が彼女の周囲の視界を悪くする。

『003!!!どこだ!!』 004は脳内無線で話しかけた。

『004、私は左前方の壊れたビルの中よ!赤ちゃんを腕に抱えてるわ!良かった、まだ息がある!』
『003、そこで待機してろ!出てくるんじゃない!』
『了解』

004は大地に跪くと、空中に向かいミサイルを撃とうとした。


!!!


「どういうことだ?!」

004が攻撃しようとしている正にその時、空中には戦闘機が何処にも見えなかったのである。
彼には002が空中でスーパー・ガンを撃ちながら、飛び回っている姿が見えるのみである。

『002、どういうことだ!!どうなってる!!』

『ニ機いるぜ!地上からはたぶん見えないが、空からは太陽の光に反射して僅かだが機体が見えている!つまりステルス迷彩機だ!』
『なんだと!!!』


jet


『004、エンジン音で場所の予想がつくわ。私が援護する!』

003が脳内無線でそう言った瞬間、先程と同じミサイルの音が聞こえ、今度はそれは丁度003が隠れているビルの辺りに落ちた。


『003!!!!!』


002と004が同時に脳内無線で叫んだ。
『こうなったら一か八かだ!』
004は、003の頭上に降ってくるミサイルめがけて、自分の膝からマイクロミサイルを撃った。
空中でミサイル同士が激突し、激しい爆音と共に互いが砕け散った。
『上手くいったか?!!』
熱風が004を襲い、彼は飛ばされないように身体にグッと力を込めた。

『くそーーーっ!!』
空中では002がマッハのスピードで、ミサイルを投下したステルス機を追いかけていた。

「そこか!!」
004は002の飛ぶ様子から戦闘機の位置に目安をつけると、さらに膝のミサイルを撃った。
しかし中々命中しない。
見えない戦闘機相手に、ミサイルの照準を合わせるなどは初めての事態である。
打ち放ったミサイルは、敵戦闘機にかすりもせず無残にも空中で砕け散った。


ここには二機しかいない。
とすると、空母と護衛の残り二機はドルフィン号が相手をしていることになる。
ドルフィン号一機に対して、相手が護衛用の武装したステルス戦闘機二機、そして運搬用とはいえ、やはり武装しているであろう空母。
つまりドルフィンは戦闘機三機を相手していることになる。
当然のことながら、小さい者(戦闘機)が大きい者(ドルフィン号)を狙うほうが立場が優勢である。
時間を掛ければ掛けるほど、ドルフィン号に不利な展開になる。
ステルス戦闘機は動きが早い。



ドルフィンは大丈夫なのか?!
008の話では、護衛機はステルス迷彩機ではなかったはずだぞ。
もしかして、こちらの動きが相手にばれたのか?!


004は、一抹の不安を感じながらも、003の身を案じ、彼女がいる場所へ走った。




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