written by みさやんさま




バオバブの木




「The biginning」〜悲劇の村〜




<1>


ある日、日本の009達の元にアフリカに一時帰省していた008から知らせが入った。


砂漠化が進むアフリカ某国では、世界的に開発が進む石油・天然ガスを巡るトラブルにより、内乱が起きていたのだが、 それにBGが絡んでいる可能性があるというのだ。
天然ガスが埋蔵されている一帯は、古くからのしきたりを重んじる地元住民にとっては、神聖な場所であった。
その場所を、日本の某企業が、天然ガスを利用した大型の工場を建設するとゆう名目で、アフリカ某国から買い取ったのだが、 この話しの裏にBGが絡んでいたらしい。

当時、地元住民は苦汁の選択を迫られていた。
神聖な場所を、いくら国の命令とはいえ明け渡すということは、神への冒?ではないのか?という思いと、貧しい日々を少しでも改善するためには、安定した職場を確保しないと生きていけないという思いで、それぞれの心が揺れていたのである。
貧しい土地に外資企業が入ってくるということは、街の活性化にも、生活の糧にも繋がり地元住民にとっては悪い条件ではないのである。
この辺り一帯は、乾燥した痩せた土地で、作物の出来も悪い。
豊かな土地から運搬されてくる穀物や物資を買い求めるためには、とにかくお金が必要なのである。

人々は迷った。
そして一つの決断を出した。いや初めから答えは出ていたのである。
その企業を受け入れようと。
そして自分達の生きる道を確保しようと…。

企業の工場建設の話が進むにつれ、村の村長は、心のよりどころである神聖な場所を村の高台に移動する案を出し、 そこに神を祀る予定の場所を確保した。
その高台には1本の巨大なバオバブの木が立っていた。その果実や新芽は食用にもなり、時に貧しい村の人々を救った。
バオバブの隣に神聖な場所を移動することによって、人々は心の安定を図ることにしたのである。


***


工場の建設を進めるために空からは、毎日のように物資が運ばれてきていた。
しかしその物資を運ぶための大型の飛行機には、決まって戦闘機が4機、その前後について来ていたのである。
それは運搬用の空母を守るように、飛行していた。
日数が経つにつれ、村の人々は疑問を感じた。

本来工場とは地上に立つものであると誰もが思っていたのだが、一向にその気配がないのである。
そして何故戦闘機が護衛しているのか?
さらに、あれだけ毎日のように飛行機で運ばれてきた物資はどこへ消えたのか?
視界を遮るような高い建物などは無い、この乾いた大地で、大量の物資が一瞬にして消えていたのである。
村長は村の人々の疑問を解くべく、代表として国に問い合わせた。
そしていよいよ国から調査の為の部隊が村へやって来たのである。

しかし……

その部隊には、すでにBGの息が掛かっていたのだ。
多くの住民が見守る中、村長の家で工場建設についての説明を兼ねた会議が行われた。
その会議の最中、村長は住民の目の前で銃殺されたのである。
「知ろうとする者はこうなる」 という言葉と共に、その悲劇は一瞬で起こった。

住民は凍りついた。

そしてその場からバラバラと四方八方に逃げ場を求め、とにかく走った。
僅かでも遠くへ逃げるために。
ある者は、子供を抱いたまま、ある者は、弱った身体で懸命に。
無抵抗の住民が狼狽し逃げ回る中、村ではさらなる銃声が響いていた。



***



008が村の様子がおかしい事に気がついたのは、事件の数日後であった。

数週間前に、村の村長から「食物を購入できない貧しい人々のために、何か寄付して下さると助かるのだが…」と、 008が所属している団体にボランティア要請があった。

008は、運搬用のトラックに食料品、飲料水、生活用品等の積荷を乗せ準備を整えると、村へ向かって車を走らせた。

村に着いた008は村の雰囲気がおかしい事にすぐに気がついた。
そして食物等を求め、トラックに集まってくる複数の住民に物資を分配しながら、
いろいろと村の様子や村長の所在等について話しかけたのだが、彼からの質問には口を濁すばかりである。
分け与えられた物資を受け取った村人は、足早に家の中に姿を消して行く。
出掛ける前に目を通した資料によると、この村はこんな雰囲気ではなかったはずなんだが…と、008は思った。
小さい子供の目には生気がなく、大人達は瞳を合わせようとせず俯き、老人達は疲労困憊した様子でぐったりしている。

008はぐるりと周囲を見渡した。
そして上空に飛行機の不快なエンジン音を聞いた彼は、空を見上げた。

(なんだ?…あれが運搬用の飛行機?)

住民や村の様子、村長の不在。やはり何かがおかしい……。

疑問を感じた008は、すべての食物を分配し終えると、住民には帰るように見せかけて、密かに地元住民に成りすまし、 村に留まった。
ボランティア団体には、用事が出来て帰りが数日遅れるが、心配しないで欲しい。という手紙を村から送った。
そして数日間、現場で内部調査を進め、アフリカ某国にBGのアジト構築予定と見られる場所を突き止めたのである。


一見ただの乾いた大地であるそのアジトは、地上から地下へと続く構造になっており、地上からの入り口は一つのみである。
そしてその入り口が開かれるのは、物質の搬入が行われる午前10時の一回のみ。
地下内部は建設途中なため、まだ守りは薄いはずである。
物質は空から運ばれており、それを運ぶ運搬用の空母一機と護衛のための戦闘機四機がその時間、上空に表れる。
それを招き入れるように、地下へのハッチが開く。

そこまでを調べた008は、一旦村を離れ、アフリカ滞在中借りているマンションへ戻ると、日本の009達へ国際電話を掛けた。
008から連絡が入ったその翌日、たまたまメンバーが全員日本に揃っていた彼らは、深夜ドルフィン号で日本を飛び立ったのである。


***



昨晩日本を離れたドルフィン号が、途中ピュンマを搭乗させ、目的地近くへ到着したのは、まだ早朝という時間だった。
朝の光が赤い機体に反射して上空から見えないように、幾分か背の高い草木の茂る、 周囲に岸壁がそびえる場所を探しだすと、ドルフィン号はそこに着陸した。
そして、地下基地からBG本体へ無線による連絡等がないかを、高性能の遠距離レーダーで調べていた。
しかし外部から感知されないように、基地からの無線は、特殊な暗号が組み込まれているらしく、 それらしい信号はあるものの、ドルフィン号のレーダーを使用しても無線は拾えず、 さらに地下基地の具体的な場所の特定すら難しい状態だったのである。
つまり、見つけ出そうとさらにレーダー機能を駆使すればするほど、相手に逆探知されるのがオチである。
そこで008は、自分が目視した場所の下に、BGの地下基地が広がっていると想定し作戦を立てようと、皆に申し出た。
009達は、物資が空輸され、地下へのハッチが開くという午前10時を狙って、ドルフィンで攻撃をするという作戦を立てた。


(A)ドルフィン号には、博士、眠っている001、操縦桿に008が座った。補佐として007がドルフィン号に残った。
(B)地下基地への乗り込みに009、005。モングラン担当は006。
(C)地元住民の護衛に003、その護衛と地上での戦闘に備えて002、004。
彼らは三班に分かれることにした。

ドルフィン号は、現在の場所に着陸待機し、地上から敵の戦闘機を追いやった形で、その後ろから攻撃をかける。という作戦である。

そしてB、Cは全員が一旦モングランに乗り込んだ。
地下から移動し、住民が暮らす村あたりで、地上近くへ浮上したモングランは、C班を下ろし、また地下へ潜ると、 B班を乗せて地下基地へとモングランで突っ込んだのである。




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