written by あこさま




「You are so beautiful」




「ごめんなさい、思ったより長くかかってしまって・・・」

少し申し訳なさそうな声が頭上から響く。
ぼんやりあれこれと考えを巡らせていたジョーは、その声にふっと我に返った。
声のする方へと振り向く。そして…



「……ジョー?」

階段の上の自分を見上げたまま、固まったように動かない彼を不審に思ったのだろう。
フランソワーズが不安げに声をかける。

「あの……」

「まーったく、貴方があんまり綺麗すぎて固まっちゃってるのよ、彼」
とフランソワーズの後ろから、彼女の友人のみづきがひょいと顔を出した。


ここはフランソワーズの通うバレエ教室の友人であり、デザイナーでもある有沢みづきのデザインオフィス。
若いながらMIZUKIブランドとして業界では結構名の通ったデザイナーらしく、東京の一等地にオフィスを構えている。
サバサバした性格の彼女とは妙に気が合い、お互い忙しいながらも2人は交流を深め、恋愛相談までする仲になっていた。
今日は彼女がフランソワーズのためにデザインしたドレスがあるということで、その試着に来ていたのだった。

「やっぱり似合わなかったかしら…とても素敵だけれど、私じゃ着こなすのは…」
「何言ってるのよ、とっても似合ってる。思い切って大胆な柄にしてみて良かったわ。貴方の良さを引き立ててるもの。ねぇ?」

その問いかけに彼はようやく硬直から解かれたように身じろぎすると、

「いや…あんまり綺麗でびっくりした…」

とだけ言い、自分の言葉にさらに照れたかように俯いた。
その言葉にフランソワーズも頬をほんのり赤らめ、小さく俯く。

2人して俯いてしまったウヴな恋人たちにみづきは呆れたように笑うと、
「ほんとに手のかかる子たちね」とまるで母親のような顔で階段をトントンと下りていく。

そしてジョーのところまで来ると、その背中を片手でドンと叩いた。

「そんな悠長なことしてたらね、こんなかわいい彼女、他の誰かにとられちゃっても知らないんだから」
軽くウィンクする。

心底困ったような顔でみづきを見やると、ジョーは再びフランソワーズへと目をやった。



本当に美しかった。

軽やかに流れるような亜麻色の髪
大胆なカットをとった胸元
細いウェストのくびれからすっと広がるドレスライン
そして彼女の肌の白さを際立たせる華奢な肩が眩しい。

”ほら、エスコート、エスコート”とみづきが横で軽くド突く。

わかってるよ。
でも、エスコートなどと言われても、何をどうしたらいいのかわからない。

情けないような顔で見上げるジョーに、フランソワーズもまた困ったような照れ笑いのような顔を浮かべると、
おずおずと右手を差し出した。

その手に導かれるようにして、彼がふっと一歩を踏み出す。

まるで右手と右足が一緒に出そうな勢いの彼に、みづきは横で
”これじゃウェディングドレス姿なんて見たらどうなることやら”と込み上げる笑いを必死でこらえた。



そして… 一歩一歩、ゆっくりと階段を上っていく。
彼女のその天使のような笑顔だけを目指して。


Fin.


* * * あこさまからのコメント * * *

水無月さんの描かれるお嬢さんはもう本当に美しいです〜〜(うっとり)
そしてオシャレ♪♪
…ふふ。MIZUKIさんはもちろん水無月さんから文字っておりますです(笑)。
ちなみに書いているときのバックミュージックがJoe CockerのYou are so beautifulでして、
そのままタイトルに頂きました/////(オイオイ)
以前、友人の結婚式で黒人のお姉さんがこの歌をアカペラで歌っていたのを聴いて以来、
すっかり私の中でのウェディングソングなのです〜。
(ってウェディングの手前のお話ですが//////)

                       Mar.11, 2007 あこ

* * * * * *

心底困ったような顔をするジョーに、右手右足が一緒に出そうなジョーですよ?<ぷ
つかね、一歩一歩ゆっくり上ってないでさっさと上がりなさいったらー!
手を差し伸べてるお嬢さんの間がもたないじゃないですか -_-
ところでJoe Cocker持ってたような気がしてCDラック探したけどなかった・・・あれー・・?
今度You are so beautiful聞いたら、私の中ではぎくしゃく階段を上るジョーが浮かびそうです(笑)。
あこさん、この度は渇いたワタクシに素敵なうるおいをありがとうございました☆
                         水無月りら


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