written by みなっちかっぱ sama*



『手 紙』


「フランソワーズ……っと……。」

リビングに入りかけて、オレははっと立ち止まった。さっきまでダイニングテーブルの椅子に座っていた妹がすっかり眠りこけているのだ。

妹、フランソワーズは自分の腕を枕に眠っている。
テーブルの周りには、書きかけの手紙と今朝日本から届いた一通の絵葉書が広げられていた。

たたき起こすのもかわいそうだし……一緒に飲もうと思って淹れてきたカフェ・オ・レも無駄になってしまった。

オレは、手にしたお揃いのマグカップをしげしげと眺めた。

『それ、ジョーが選んだのよ。』

二週間前、日本から帰国したフランソワーズはお土産よ、と言ってきれいにラッピングされた箱をオレに差し出した。
中味は「ライチョウ」の描かれたマグカップ。
「私の分もあるの。ここにいる間はこのマグカップで一緒にお茶しましょうよ、お兄ちゃん。」
小僧の選んだというマグカップを手に、妹はニッコリと微笑んだ。
「ジョーもお揃いなのよ。」
……その情報は、欲しくなかったな……。
「ジョーったら、お兄ちゃんのお土産を買いたいっていったらすごく悩んじゃって。
やっぱり日本のものだっていう特徴のあるものがいいよなーとか言って最初はヘンテコな壁掛けとか選んできてたのよ!
さすがにそれはカンベンしてって言ってそれに落ち着いたの。」
その時の様子を思い出すかのように、フランソワーズはくすくすと笑っていた。

―オレの知らない、「オンナ」の顔。

いつのまにか、お前は小僧のものになっちまったんだなあ……。

フランソワーズが読んでいたアイツからの葉書が、ふとオレの視界に飛び込んできた。
……へったくそな字だなあ……。
世の女性達を虜にしているトップレーサーが、こんなミミズのはったような字を書いてちゃ、百年の恋も冷めちゃうぜ。
この字では、たぶん手紙なんて書くのは大の苦手なんだろう。

それでも。

奴はマメにエアメイルを送ってくる。
そのエアメイルを、フランソワーズは何度も何度も読み返している。
おかげで家事の手が止まってしまうからその日は掃除も洗濯物の片付けも滞りがちだ。ま、たまにはいいんだけど。

オレは手に持っていた二つのマグカップを、フランソワーズを起こさないようにテーブルに置いた。
そしてソファーからブランケットを取ってくると、幸せそうに眠る妹にそっとかけてやった。

フランソワーズは寝ているし、仕方がない、一人でぶらっと買い物に出かけるか。

何を買うかって?
可愛い妹をかっさらっていった、小僧へのフランス土産さ。
パリジャンのエスプリを効かせて、オレがとびっきりの品物を選んでやる。

待ってろよ、ジョー!!


                                 …おしまい。


Presented by みなっちかっぱ sama*
   very very thanks!!



可愛いお話とイラスト、みなっちかっぱさまのサイトはこちらからドウゾ♪
link




back *