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Catch me...
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真っ蒼な空の下、水平線に並ぶ複数のボード。
横一列に競うように。
ただ静かに何かを待っている。
何か――波、を。
大きく波がうねった瞬間、各々がボードに立ち波間をすり抜けてくる。
大きなチューブ。
彼らはそれを待っていたのだ。
しかし。
ある者は早々とボードから離れ、波の中に脱落し、ある者は天高く飛ばされ弧を描いて落ちてくる。
ただひとり、中央のその人は難なく波を乗り切り涼しげな顔で降り立った。
浜辺の女性の視線を独り占めして。
ボードを小脇に抱え、髪の雫を払い太陽を背にして微笑む。
「フランソワーズ。見てた?」
「見てたわ。完璧ね」
「だろ?」
にこにこと子供のように笑む罪なひと。
彼に視線を固定していた女の子たちが一斉に彼が話しかけた相手――私に目を移す。
「さすが、乗り物ならなんでも運転できる009ね」
「あ。その言い方、傷つくなァ。これは僕の腕だよ」
少し拗ねたように言って、そうして
「ほら。フランソワーズも行こう」
私の腕を掴んだ。
「えっ・・・イヤよ。無理よ、そんなの」
「大丈夫、僕がちゃあんと教えるから」
だからイヤなのよ――という声は胸の中。
「せっかく来たんだし、遊ばないともったいないよ」
「でも・・・」
サーフィンなんて、やった事ないし。
尚も躊躇していると、思いがけないところからジョーに援護射撃がきた。
「イワンならワシが見とるから、行ってくるといい」
「――博士」
「若い者同士、遊んでくるといい」
博士の加勢に力を得たジョーは、そのまま私の腕を掴み海に入った。
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「絶対、無理」
「大丈夫だって。僕の言う通りにしていれば」
悪びれず、ニコニコ言う彼の目をじっと見つめる。
「だって・・・。ちゃんと教えてくれる?」
「もちろん」
「おふざけはナシよ。マジメに、よ?」
「ああ」
マジメな顔をして見せるけれど、こういう顔をしている時の彼は油断ならない。
絶対、何か悪ふざけしようと目論んでいるはず。
今までの経験がそう教える。
「ホラ、そろそろ波がくるから構えて」
言われるまま、おっかなびっくりボードの上に乗って、そうして――
「――来た。僕の言う通りに――わっ!!」
教えると大威張りしていたジョーは、いとも簡単に波に呑まれた。
そして私は、当然の如く天地が逆さまになって、蒼い海に落ちていた。
不意を衝かれたので、鼻と口から海水が流れ込み息ができなくなった。
咳き込もうにも、あいにく海の中ではどうにもならない。
――死ぬかも。
冗談ではなく、そう思った。
手足の自由がきかず、息もできず――
もうっ・・・ジョーのばか。
『バカとはひどいな』
いきなり頭の中に彼の声が響いた。
『フランソワーズ。あんまり暴れると溺れるよ』
妙にのんびりと言われる。
――溺れるよ、って・・・今まさに溺れてるのよっ
ごぼっと口中から泡が出て、私は更に深く海に呑まれていった。
――沈む。
本当に、死ぬかもしれない。
ブラックゴーストと戦って生き残ったのに、こんな事で死ぬなんて。
ジョー。あなたも少しは泣いてくれるかしら。
そんな思いをのせて、沈んでゆく身体。
陽の射さない海中は、真っ暗で冷たく・・・静かだった。
海の中で、私だけが異質だった。
ゆっくりと沈んでゆく。その速度はまるで――「不思議の国のアリス」が穴の中を落ちてゆく時のよう。
そういえば、昔兄に私の瞳はアリスブルーだと言われていたわ・・・と、ぼんやりと思い出す。
人は死ぬ間際に今までの人生を思い出すというけれど、これがそうなのかしら。
――ジョーのばか。どうして助けに来ないのよ。
頭の芯がじんじんしてくる。脳が酸素を欲しがっている。
私はどこまで沈んでゆくのだろう。
この身体はいつか――海の藻屑と消えるのだろうか。
――寒い。
どんどん暗く深い海の底に沈んでゆく。
――怖い。
と。
いきなり腰に何かが巻きついた。
――!?
何?
何かが、私を――
***
頭痛がおさまってゆく。少しずつ。
ぼんやりと霞がかかったみたいだった思考に光が射してゆく。
暫くののち、私は自分が浮上していっていることに気がついた。
上の方がかすかに明るくなっていく。
そして――息ができる。
『まったく・・・どうして体内酸素ボンベを開かなかったんだ?』
ジョーの声が頭の中に響く。
『どんどん沈んでいくから――心臓に悪いよ』
怒ったように言われ、私を抱く腕に力がこもった。
そう――私はジョーの腕に抱えられ、ゆっくりと浮上していたのだった。
私はジョーの首筋に両腕を巻きつけ、彼の肩に頬を寄せた。
少しして、ジョーが浮上する速度を緩め、私を見つめて心配そうに問いかけた。
『そろそろ自分で息できる?』
――できない。
『――フランソワーズ』
呆れたように軽く息をつくと、再び私の唇に唇を重ねた――先刻と同じように。
沈んでゆく私を抱き締め、ジョーは自分のなかの酸素を私に送ってくれていた。
唇を重ねて。
そして今も――私の中には、彼からもらった酸素が行き届いていく。ゆっくりと。すみずみまで。
しばらくして唇を離すと、ジョーは再び私を抱き締め水面めざして泳いでゆく。
――ジョー。
『何?』
――心配、した?
『したよ』
――怒ってる?
『ちょっとね。でも・・・・』
ばしゃんと水面から顔を出す。
ジョーが少し咳き込んだ。
私はそのジョーの顔を両手ではさんで、有無を言わさずくちづけた。
そうっと彼の中に酸素を送る。
――でも、何?
『ん・・・』
一瞬、離れる唇。
『でも面白かった――って言ったら、怒る?』
――まぁ。ジョーったら。
『・・・続きはどうする?』
「続きって、サーフィンの?それとも・・・」
どっち?
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Written by うさうさ sama
Special Thanks!!
うさうささんに「原作風味な93で」とリクエストしておきながら
添えたイラストが思い切りオリジナルでスミマセン。。。
水無月拝
2008.8.26
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