written by ぽろんさま




            題字






柔らかな風が吹いた。

小高い丘の上で僕はマウンテンバイクを降り、小さく深呼吸する。







きみが故郷に帰って行ったのは、寒い寒い朝だった。

白い息とともに零れ落ちそうになる言葉を、僕はやっとの思いで呑み込んだ。



夢に向かってまっすぐに歩き出そうとするきみ。

そのきみを引き止めてしまったらきっと、きみはきみでなくなってしまう。





胸のまんなかにぽっかりと開いた穴は、簡単には埋まってくれなかった。

こんなにもきみを求めていることを、僕は、離れてみてようやく知ったんだ。




だけど、時は移り、季節は巡る。

長かった冬も終わりを告げ、春はやって来る。







暖かな風が吹いた。

僕はその温度を確かめるように眼を閉じる。



こうしていると、きみが隣で微笑んでいるような気がするよ。

もしかしたらきみは、ずっとそばにいるのかな。

だって、すぐに思い出すことができる。

きみの澄んだ瞳の色も、亜麻色のつややかな髪も、しなやかな指の感触も。

そして、歌うように僕を呼ぶ声も。





僕は眼を開けて、青い空を見上げた。

真っ白な雲が浮かび、ひばりのさえずりが響き渡る。



この空は続いている。

きみの暮らす、遠い街にも。



フランソワーズ。

僕は、ここにいるよ。

こうして、いつでもきみを近くに感じることができるんだ。





春の優しい風が吹いた。

ほのかに甘い花の香りに、僕はもう一度眼を閉じる。

寂しい時、悲しい時、そっと抱き締めてくれた大切なぬくもりを、僕も胸の中で抱き締める。





春の風が、吹いた。

優しく、暖かく、そしてほんの少し切なく、僕を包み込んで。







おしまい






  「水宮のイルカ」ぽろんさまがリンクのお礼にと素敵なお話をプレゼントしてくださいました♪
  
  ふたりは日本×パリと遠く離れ離れだけど、なんだかとってもしあわせな余韻が残ります。
  フランソワーズがいなくなって心にぽっかりあいてしまった穴はとうてい塞がらないけれど、
  そこは生々しい傷口ではなくて、時間をかけて今ジョーが座っている場所のようにやわらかく
  草が生え、ちいさな花が咲いているような気がします。

  しあわせな余韻が残るのは・・・いつかまたふたりが寄り添う姿が目に浮かぶから。
  そしてその時はきっと、ジョーも自分の夢を切り開くためにがんばったお嬢さんも
  ひとまわりもふたまわりも強く大きく優しくなっているのではないでしょうか ^-^


                 ぽろんさん、この度は優しい余韻が残る素敵なお話をお贈りくださり、
                                 本当にありがとうございました!!


                                   2008.3.25    水無月りら


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