『LUXE』
慌ただしく過ぎ去る時間に、乱れる事のないリズムの秒針を憎らしく思う。
確認するために投げた視線を再びそこへ映したとき、予想に反した数字をさしていれば、
苦々しく罪のない時計にむかって舌打ちを打つ。
そんな日々の中に、ぽっかりと開いてしまう何もない1日が突然やってきたりするから、
人生はおもしろいのかもしれない。
モニターのicalを覗き込み、何度も確認したけれど、そこに文字らしき文字は書き込まれ
ていなかった。
マウスを動かしクリックをQuitの文字をクリック。続けてShut Downの文字を押して、
キーボードのreturnキーを利き手中指で軽くタップした。
部屋を出る前に読み癖のついていない、購入した書店のペーパーカバーがつけられた
単行本を手に取り、ぱらぱらとめくり内容を確認する。
ジョーの長い前髪がめくっていくページの作り出す微風に揺らされた。
ルームライトを必要としない午後。
強すぎる夏の陽差しを和らげるためにひかれたレースのカーテンが作り出す、影模様が
フローリングの床に伸びる。
肩を出しているフランソワーズの服装から、暑がりな博士には申し訳ないけれど、エア
コンディショナーの設定温度をあげた。
ジョーが手に取ったコントローラーを視線だけで確認したフランソワーズは、くすり。と、
笑って彼の左側に背をあずけて、頬をよせる。
「寒くないわ」
コントローラーを適当なところへと置いて、1/3ほど読み進んだ単行本を手に取った。
「ん・・・」
生返事で応え、再び単行本の世界に入っていくジョーにゆったりと甘えるように瞼を閉じて、
彼の息づかいに、肩に、腕に、包まれていく彼の香り。
壁時計の針の音。
いつもと変わらない波音。
遠くで鳴ったクラクション。
近くの白浜に遊びに来ている人の、楽しげな声。
いつもの波が作り出す泡がしゅわしゅわと名残惜しげに消えていく。
テーブルに置いた、2つのアイスティ。
からん。と、重なっていた氷が音を立てて狭いグラスの中で位置をかえた。
グラスの表面にできた水滴が、重力に従ってつぅと落ちる。
ビーズで作られたコースターの細かな目を抜けて、テーブルを濡らす。
フランソワーズの長い睫毛が揺れながら、押し上げられると、単行本を顔の位置で支え
ていたジョーの手が単行本を伏せるようにしておろされた。
壁に飾られた時計が、2人の注目を浴びる。
「まだ・・」
「ジョーは速読なのね」
「そうかな?」
「ええ、そうよ・・・」
「そうなんだ・・・」
フランソワーズは彼の胸に埋まるように体をすこしだけ傾けた。
ジョーの左腕が、フランソワーズを包み込む。
「ね、」
「?」
「・・・・次はきっとおやつの時間のころかしら?」
「かもね」
フランソワーズは再び瞼を閉じる。
ジョーは揺れる事のないカーテンのさきにある、光を見つめた。
「そういえば冷蔵庫にさ、エクレアがあったよね?」
「・・・まだダメよ。おやつまであと、1時間」
end
Presented by ACHIKO sama*
very very thanks!!

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