Written by ぽろん sama * |
背筋をぴんと伸ばして歩くきみの背中を見送ってから、どれくらい経ったのだろう。
時間はゆっくりと巡り、一番眩しい季節にきみは帰って来た。
僕のもとに。
「ジョー、少し痩せた・・・?」
気遣わしげにきみは言った。
僕も今、同じことを言おうとしたんだよ。
久し振りに会ったきみは以前よりほっそりとして、髪が伸びて、そして輝いている。
明るい太陽のせいかな。
光る海のせいかな。
本当はわかっているんだ。
故郷で過ごす、充実した毎日が、活き活きとした生活が、きみを内側から輝かせているんだって。
それを認めるのはほんの少し、寂しいけれど。
離れている間、ほとんど連絡をしなかった僕をきみはどう思っていたんだろう。
手紙なんて書けない。
たまに電話しても、不器用な僕は、気の利いた言葉を操れないし、上手く振る舞うこともできない。
――僕は大丈夫。
――いつでもきみを応援してる。
ようやく出たぎこちない言葉。
それは、自分自身に言い聞かせる言葉でもあった。
会いたい。
帰って来てほしい。
伝えられない本当の気持ちは、小さくたたんで封をして、胸のずっと奥にしまいこんだんだ。
・・・やっとの思いで。
海岸をゆっくりと歩く僕の後ろを、きみはついて来る。
僕の足跡をひとつひとつ踏みながら。
背の高さが違う分、歩幅も違う。
それなのに無理をして跳ねるように歩くから、わずかに息を切らしている。
振り返ると、きみは悪戯っぽく笑った。
その笑顔が変わっていないことに、僕はほっとした。
白い砂浜にきみと僕の足跡がぴったりと重なって続いていた。
伝えたくて伝えられずにいた、もうひとつの大切な言葉がある。
僕は海の眩しさから眼を逸らすふりをして、きみに背中を向けた。
そのまま、囁くようにそっとつぶやいてみる。
「大好きだよ、フランソワーズ」
聞こえたかな。
届いたかな。
肩越しにこっそり視線を送ると、きみは潮風に髪を柔らかく躍らせて、遠くを見つめて微笑んでいた。
なんとなく照れくさくて、僕は背を向けたまま、きみの小さな手を握った。
きみが手を握り返す。
僕の前に回って、眼を覗きこむ。
青。
広い海の青。
高い空の青。
きみの瞳には、今の季節が一番似合う。
それから僕達は波打ち際を、手をつないで歩いた。
きみと僕の足跡が、今度は寄り添うように並んで砂浜に刻まれた。
数日後、きみは再び旅立っていく。
僕のもとを離れて飛び立っていく。
夢を追うきみの道は、まだ途中だから。
きみが飛びこんだ僕の知らない世界。
僕がしてあげられることは、そっと見守って、支えることだけ。
芯が強いきみには、それも必要ないかな。
だけど。
大きくて深い男でありたい、そう思う。
別々に歩く僕達の道は、重なることはないかもしれない。
でもこの先ずっと、同じ方向を向きながら、並んで続いていく。
未来へ。
希望へ。
それを信じている。
だから僕は笑って見送ろう。
僕は立ち止まってきみの肩を引き寄せた。
少しよろめいて、きみの身体が僕の腕の中に納まった。
抱きしめる腕にきゅっと力をこめる。
一分だけでいい。
一分間だけ、こうしていたい。
きみを僕に、僕をきみに刻みつけて、もう一度歩き始めよう。
それぞれの道に、足跡をしっかりと記していこう。
今、この時。
きみと僕、二人だけの、永遠の一分間。
おしまい