残 照
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「うわぁ〜きれい!」
無邪気にキミが叫ぶ。
陽は沈んでしまったけれど、海に照り返るまばゆい光がキミの顔も染めていた。
楽しそうに海を見つめるフランの横顔を僕は複雑な気持ちで見守った。
これが本当のフランの笑顔なんだろうか…
「ねぇ、ジョー、あの船どこへ行くのかしら?」
キミが指を指す方向に残照の中、ゆったりと海上に浮かぶ大型船が見えた。
「う〜ん、もしかしたらキミの国に帰るんじゃないかな」
敢えて‘帰る’と言ってみた。‘行く’ではなくて。
「私の国?」
「そ、フランスに」
フランはその言葉にちょっと瞳を曇らせた。
「フランス…」
「想い出せない?」
「…ごめんなさい…」
さっきまでの耀く蒼い瞳に灰色の翳りが滲んだ。
「謝らなくていいんだよ。そのうちきっと想い出すよ」
僕は無理に笑い顔を作り、フランを抱き寄せた。
フランの身体が一瞬強張ったのがわかった。
大丈夫、何もしないよ。
ただキミを安心させたいだけだ。
ゆっくりと髪を撫ぜると、フランはやっと力を抜いて僕の胸に頬を寄せてくれた。
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