ぷち妄想 Timさま
「・・・・カネがない」
「は?」
ステファノは目をとおしていた資料から目を上げ、声の主を振り返った。
モーターホームのカフェスペースの一角。
グランプリウィークとはいえ、設営も終えた水曜日の夕方で、週末の闘いに備えそれぞれが徐々に
臨戦態勢になってきてはいるが、それでも、まだどこかゆったりとした時間が流れるひとときである。
ステファノは、声の主に話しかけた。
「リナルド、今なんて?」
リナルドはステファノのメカニック仲間だが、同じイタリア出身ということもあり、ステフとは仲が良い。
そのリナルドがガックリと肩を落している。
「カネがない〜〜」
「・・・チームが? そんなウワサが出ているのか?」
まさかという思いでステフが聞いた。
あの敏腕アーデットがマネジメント・ディレクターをしている限り、そんなことはないと思うが。
すると、リナルドが冷たい一瞥をステフにくれた。
「・・・お前、サミュにしばかれるぞ」
「・・・・・・じゃあなんなんだよっ」
リナルドが目を手元の紙に戻し、それをじーっと見ていたかと思うと、再びはーっとタメ息をついた。
「宴会資金がさー。ないんだ」
「・・・・なにーっ!!」
ステフがものすごい勢いで駆け寄り、リナルドが見ていた紙をがばっと取り上げた。
「あ」
「・・・・なんだよこれっ。なんでこんなにカネがないんだよっ」
「だからさっきからそう言ってるんだよ」
「そーじゃないっ。なんでこんなになるまで放置しとくんだよ!!」
「そうはいうけど誰も管理してないから仕方ないぜステフ。
俺だってさっき見てびっくりしたくらいなんだから」←今回幹事
「う・・・」
「あーあーこれじゃ今回のGPの打ち上げはナシだなーーー。
ま、それもいっか、俺今回幹事しなくていいし」
あっさりとそういうリナルドに、しかし、ステフはくいさがった。
「いやだ! 打ち上げだけが楽しみなのに、それがなくなったら俺はっ俺たちはっ何を楽しみに週末を 乗り切ればいいのか・・・(男泣っ)」
「・・・・いや、“俺たち”って・・・。すくなくとも俺はいつもと同じようにシゴトするだけだけど」
クールなリナルドのヒトコトに、ステフはタメ息をついた。
「そうだろうよそうだろうよ、お前はそういう冷たいヤツさ。だが俺は違う! そしてみんなも違う(だろ う)!!!」
「いや違わないと思うぜ。だいたい括弧で「(だろう)」ってなんだよ、そもそも自信なんてないだろ。
ま、いずれにしても今回は仕方ないし、またコツコツ積み立てて集まったら再開しようぜー」
リナルドはあっけらかんとそういったが、ステフは納得ができなかった。
辛く厳しいグランプリウィーク。
ストレスとプレッシャーにさらされ、消耗しつくしていく心と身体。
時には朝まで続くマシンの調整。
心の支えとなる家族は遠く離れ・・・・・涙涙
だから、俺は、俺は、日曜日の打ち上げをなによりも心の楽しみにしていたのに〜〜〜〜〜〜!!!!
戦いを終えた男たちに、現地の女神たちの微笑みがどれだけ救いになるか!(←要するに言い訳なのね)
ステフの目がきらっと光った。
「俺に考えがある」
「・・・・・・・」
リナルドは嫌な予感がした。
まさかとは思うが・・・・・・・
翌日。
リナルドは、ゴシップ誌の記者のごとく、ヒマをみつけてはジョーを追いかけまわすステフの姿を、何度も
見かけることになるのだった。
「ジョー、チャリティやろうぜ、チャリティ♪」
「やだよ、またレッドブリテンにのせられそうだし」
「ぐ・・・・。わーっ待てまてっ」
「ステフ、着替えるからちょっと出てくれるかな」
「ぐぐ・・・・・・」
パタンと閉まったドアの前で、意を決した顔でそっとカメラを取り出すステフ。
そしてドアにゆっくりと手をかける。
(・・・・・・コラコラ、それは犯罪だろステフ、汗)
と内心ツッコミをいれながら、
(しかもチャリティってどこが“いい案”だよ。普通、チャリティって、慈善団体に寄付するもんだろ。 決して俺たちの酒代を稼ぐもんじゃないと思う・・・)
とさらにツッミコをいれまくるリナルドなのだった。
おしまい
Tim sama Special Thanks ♪
ちなみに。
”女装ジョー”の隣でバニーちゃんしてるのがステフです。
あ、今年の開幕グリッド、シニア・レースエンジニアのジャックさん(スキンヘッド)
の後方でシゴト中の後姿も彼です、笑。
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