行くことができなくても、フランソワーズは怒らないだろう。
それが少し、悲しかったりもする。
急な、呼び出し。
それは004からだった。
彼女の舞台の日まで少し間がある。
きっと、帰ってこられる。
簡単に電話で聞いた内容からしても、”人手”が足りない。と、言うだけの印象だった。
それが、ボクの大きなミス。
Lovers on the balcony
009と同じく、004に呼ばれた008は、メンテナンスのために日本へ戻る予定であったため、
少し早いが、予定を繰り上げて007、009とともにドルフィン号で日本へ行く事にした。
<ねえ、009はどうかしたの?>
操縦席に座る009の様子を見ながら、008は007に脳波通信を飛ばす。
予定していたよりも、ミッションは長引いてしまったが、問題なく終わらせることができた。
普通なら、のんびりとした雰囲気に包まれているはずである。
しかし、009が発するオーラは、ミッションへ向かう前よりも、いや、それ以上の”殺気”だったような、
なんとも言えないピリピリとした空気を作り出していたために、息を吸うのも遠慮しなくてはならない。
008は肺呼吸をやめて、体内に装備されている酸素ボンベを使いたくなる、ほどに息を詰める。
千里先の山に落とした針でも、スーパーガンで打ち抜いてしまいそうな勢いで、009は苛ついていた。
<ん?ああ、・・・今日が003のソロ公演なんだなあ、確か・・・>
のんびりとした、007が話す”理由”に008は集中することで、コクピット内に漂う息苦しさを忘れようと努力した。
通い始めたバレエスクールで、年に一度開かれるガラ・コンサート。
その舞台でフランソワーズは初めてソロを踊ると言う
「オデットのソロなの!」
「・・・へえ・・」
興奮して報告するフランソワーズの口から奏でられる音の、そのほとんどが理解できないジョーは、
手に持っていた、定期購買している、雑誌に視線を落としたまま、ソファに深く身を沈めている。
そんなジョーの様子など、おかまいなしに、フランソワーズは話しかける。
「観に来てくれるかしら?」
「・・・うん、・・・そう、だ、ね」
雑誌には来年度のF1、レギュレーションの変更予定の特集が組まれており、夢中でそれを読んでいた。
「絶対にね!約束よっ・・・・お花も・・・ね?」
「・・う、ん・・・そうだ、ね」
「絶対に、絶対によ!」
フランソワーズはジョーの腕を引っ張った。
そこで、ようやくジョーは視線をフランソワーズへとむける。
「お花と一緒に、絶対に来てね?」
−−−花!?
「ね?約束ね?」
−−−しまったっ・・・。
胸の中で舌打ちしながらも、覗き込んでくる、こぼれ落ちそうに大きな、輝く宝石に、いまさら”嫌だ”とは言えない。
そんな勇気を、ジョーは持ち合わせておらず、さらに。
「約束ね!」
と、形良い愛らしい唇が、頬に触れた。
この世のどこに、フランソワーズのキスによって誓われた約束を破る男がいるだろうか。
ドルフィン号が、ギルモア邸の地下に続くドックに納められた途端、009の姿が閃光のごとく消えた。
睨んでいたデジタル時計は、まもなく彼女が舞台に立つ時間の数字を表示しようとしている。
「すっごい・・ね、戦闘中の加速よりもキレがいい・・・」
「しかし、だ。あれじゃあ”約束のもん”忘れてやがるなあ・・・仕方ないヤツだ」
「約束?」
「001、おおいっ!起きてんだろ、ちっと助けてやらないとなあ!」
ドルフィン号の中で007と008が、001を呼び出した。
####
”加速装置”を使ってたどり着いた会場。
−−−あ、・・・花っっ!!
奥歯を噛み、加速を解く。
人目を避けた会場の裏口、搬入専用の駐車場らしき場所で、立ちつくした。
「って、こんな格好で買いにいけないよっ」
自分の防護服姿が情けなく、思わず泣きそうになる。が、仕方がない。
時間を考えても、花屋が開いているとは思えない。
溜め息を吐きながら、奥歯を再び噛もうとしたとき、001からテレパスが届く。
<コレハ、ミンナカラ 003ヘダヨ。・・・009ガ代表デ届ケテ>
広い舞台の上。
スポットライトが彼女を追いかける。
トウで立つ、姿が、美しく、伸ばされた指先の可憐さに、目が離せない。
客席から観ることは叶わなかったけれど、だからこそ自分だけの”特等席”で、フランソワーズを見守った。
アンコールの声が混じる盛大な拍手の中、幕がおりる。
照明に輝らされた眩しいほどに白い、チュチュ。
キラキラと綺羅めく、スワロフスキーのビーズたちは、彼女が今日の舞台のために、
少しずつ彼女が自ら縫い付けていたもの。
羽をあしらった髪飾りとティアラが、あまりに似合いすぎて、どこかの国のお姫さま。
と、紹介されても疑うことなんてないだろう。
舞台上で、深く頭を下げていた白鳥が、顔をあげる。
「フランソワーズ」
目の前に、紅の花束。
「約束、だったよね?」
紅の服を着た、王子さま・・・とは言い難い。
「嬉しい・・・」
「・・・・・その・・・綺麗、だったよ」
腕に抱きしめた約束の花束。
くちびるに、大好きな人の愛を受けとめて。
「このまま、キミを・・・連れて帰りたいんだけど?」
囁かれた言葉に、踊り終えた高揚感とは別の、気持ちが胸を高鳴らせた。
「駄目、まだ舞台は終わってないのよ?・・・3部構成なの。最後までいるわ」
「・・・ふうん、じゃあ・・・・”ちゃんと”迎えにくるよ」
目の前から消えた、紅の・・・・。
幻?
腕に抱く、バラの香りを胸いっぱいに吸い込んで。
フランソワーズは、くちびるにふれた花びらの感触に、彼を想う。
「待ってるわね・・・・私の王子様」
end.
Written by ACHIKO sama*
Special Thanks
9.10 2008
ACHIKOさまサイト「LOVE×ぜろ9」はこちらからドウゾ☆
|