written by うさうさ さま  
  





蕎麦は確かに美味しかった。評判になるだけのことはある。
僕はすっかり満足して店を出て――傘をさそうとして、いつの間にか雨がやんでいる事に気がついた。

かすかに空が蒼い・・・ような気がする。
「あら。やんだのね」
蒼い瞳を煌かせて、隣にいるきみが言う。
「良かったわね?ジョー」
良かったのかどうかと問われれば、晴れている方が好きだし「良かった」と答えるべきなんだろうけれ ど。
けれど、晴れてしまうと相合傘という訳にはいかないから、必然的に彼女との距離ができてしまうわけ で――
複雑な気分だった。
「どうしたの?」
黙り込んだ僕を心配そうに見つめるきみ。
「――別にどうもしないよ」
まさか、くっついて歩けないのが寂しい、なんて言えるわけがない。
「・・・ジョーったら。ね、手を繋いでもいい?」
「えっ」
思わず見つめると目が合った。
「・・・晴れたらくっついちゃいけない、って事はないわよね?」
心配そうに言うきみが可愛くて、僕は微笑んだ。
胸の中に愛しくて幸せな気持ちが広がってゆく。
「そんな法則はないと思うよ」
そうしてきみの手をとった。

傘を畳んで手を繋いで歩く、紫陽花が続く道。
たくさんの紫陽花。どこまで行っても途切れることがないそのたたずまいに、僕は軽い眩暈を覚えた。

もしかしたら、ぐるぐる回っているだけでここから出られないのではないだろうか・・・?
握った手に力をこめると、同じように握り返してくる華奢な手の感触に安心した。
もし、この紫陽花の国から出られなくても、彼女がいるなら僕は平気だ。――きっと。
「ジョー?・・・飽きちゃった?」
「え、そんなことないよ」
ただ、延々と続く紫陽花に辟易していたのは事実だった。
大体、僕は花というものはよくわからない。せいぜい、ひまわりとチューリップがわかる程度であとは 目の前にバラとカーネーションを差し出されどちらがどっちなのか言えといわれたら間違いなくパニッ クになる。
だから、僕はいつの間にか紫陽花よりも――紫陽花を見つめているきみの顔ばかり見つめていた。
「飽きちゃった?」なんて――飽きるわけがない。きみを見つめるのは得意なんだ。何時間だって何日 だって、記録を作る自信が僕にはある。
と、急にきみが立ち止まった。
「ジョー、見て」
指差す先は、ずうっと遠くの空の彼方。
「虹が出てる。・・・キレイねぇ・・・」
「・・・そうだね」
キレイなのはきみだった。
虹を見つめる横顔があまりにも綺麗で、僕は目を離せなくなってしまった。
雨の日も。
晴れの日も。
僕はたぶん・・・きみが隣にいるなら、どんな日でも好きになれるよ。

僕の視線に気付いて、きみが僕を見る。少し頬を赤く染めて。
「もう・・・虹を見てたんじゃなかったの?」
そうして恥ずかしそうに、僕の手をぎゅっと握り締めた。





Written by うさうさ sama
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